Chihiro Minato 港千尋
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写真家、評論家、多摩美術大学教授
もしこの場所を表現するならば、自然と"美しい波紋の流れ出る場所"という日本語の表現が浮かぶ。このアトリエ・イデムに初めて足を踏み入れるとき、小さなモンパルナス通りからは想像だにしなかったその広さに、満ちあふれる光に、そして言い表すことの出来ないそのものにただただ驚く。
そこの空気は何とも言いがたく、紙とインクの入り交じった匂い、そして何より百年も昔から今日まで絶え間なく鳴り響く、作家たちの作品を生み出す印刷機の音はまた格別である。
ピカソやマチスもそのプレス機から生まれる色彩に満足し、職人と会話し若い作家たちと語り合ってきた場所。彼らの声はまだ消えず、この印刷機の奥で生き続けているかのようである。美しい波紋がここにある。一世紀のときを経て、丹念に精巧されたイメージと言葉が織りなす、まるでカクテルのようなものを私は今、想像している。